衣谷の日記

フランス在住働くシングルマザー

カッサンドラの食問題 まずいものが食べられない

 もともと食が難しい子だった。発達障害特有の五感の敏感さのせいではないかと思うが、赤ちゃんのときのミルクも、成長に合わせて変える度に飲んでくれなくて参ったし、一歳のときの保育園の先生が、「カッサンドラは、食して興味深いものしか食べない。」と言ったほど、おなかが空いていても「つまらないもの」はあまり食べなかった。

 赤ちゃんのときはふっくらしていたけど、幼稚園の間にすっかりスマートな体形になった。ただ心配するような痩せ方ではなく、当時は小さく生まれたオリオルよりまだ大きかった。

 

 それが、3年前の交互監護開始以来、体重の増え方が減速していった。私はそれにうすうす気づいていた。

 カッサンドラもオリオルも、うちに来たときや日本のおばあさんに向かってや父親を知らない私の友人などに対して、父親の家での食事のまずさをよく強調した。事実ではあると思うけど、料理が下手なのはわざとでない限りしかたのないことで、まずいからと言って食べないというのは、家庭によっては許されない。我が家では許される傾向にあるけど、出されたものは残さず食べることを、教育の方針としてもっている家庭は多いと思う。おなかが空いていれば、すばらしくおいしくなくても、ふつう食べるものだ。

 ただ、カッサンドラの過敏な味覚(味覚だけでなく、消化器官で感じていることも敏感に察知する気がする)は、彼女がおいしくないと感じるものを食べることを、拷問に変えているようにも見える。私にはがまんできなくはない、多少まずい食事も、彼女には異常に塩辛いスープとか、気持ち悪くて飲み込めないほど脂っこい肉とか、そんなふうに感じるのではないかと、私は想像している。

 父親の作る料理は確かにあまりおいしくない。別れる前の年、家事を少し分担し始めたのだが、彼が食事の担当のときは、私ですらご飯を食べることへのモチベーションは下がった。しかも、栄養バランスを何度説明しても、本をプレゼントしても分からないようで(今思えば、分かっても得をすることがないから分からないふりを続ける)、野菜さえ食べさせればいいんだろうという感じで、夕飯がにんじんの煮物だけ、というようなことがちょくちょくあった。にんじんの煮た物をおなか一杯食べる子どもなんて、そうそういない。それでは子どもには栄養不足だと言って、私が冷蔵庫からロースハムを出して子どもに与えると、「料理をした者への敬意を欠いた許しがたい行為だ」と私を批判した。

 それに対して、「悪かった」と後ろめたい気持ちになって相手の意見を尊重しようとした私は、結果的に子どもの成長よりも、父親の子どものような「ぼくが作ったんだぞ!みんなおいしいおいしいと言って食べろ!」というわがままを優先した、気の弱いバカな親だったと思う。

 

 アスペルガー症候群のケネスくんという息子を持つブレンダ・ボイドさんの書いた「アスペルガー症候群の子育て200のヒント」*1という本で、著者は「食事が最悪バナナと牛乳だっていい」というようなことを言っている(確か・・・)。アスペっ子の食の独特さは、とても理解されにくい。そのことを、この本はすごくよく現実に即して書いてあって、読むと涙が出るほどすばらしい。

 とはいっても、カッサンドラがアスペルガー症候群であると診断を受けたことがあるわけではない。テストを受けたら。診断はでないかもしれない。彼女の症状はそんなにひどくはないから。ただ、遺伝的にその傾向があるはずで、確かにそういう部分が見受けられる。

 

 そういうグレーゾーンだから、私が主治医にカッサンドラが父親宅であまり食べないことを話したとき、父親宅の食事がまずくて食べられない、と言うと言ったら、

 「それは、あなたに『お母さんのご飯はおいしい』と言って喜ばせて、あなたからより多くの愛情を得ようとしているんだと思うわ。あの子は、ちょっぴりマニピュレ-ターなんじゃないかしら?」と言われた。それは、普通そう見えるんだろう。

 確かに、そういう部分もあるには違いなかった。私は、子どもたちが私に優しくして、「いい子いい子」とかわいがってもらいたがるのを知っている。でも、今の状況を見ると、主治医もあのとき言ったことが完全には当たっていなかったと思うかもしれない。

 ただ実際私は、交互監護の始まってからの2年ほどは、カッサンドラはまずいから食べないのだと信じていた。

 

 

 

*1「アスペルガー症候群の子育て200のヒント」ブレンダ ボイド

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