衣谷の日記

フランス在住働くシングルマザー

カッサンドラの食問題 拒食症?

 2年ちょっと前、今の主治医がカッサンドラに初めて会ったとき、医者はとっさに、カッサンドラは成長に問題があるかもしれないと私に警告した。彼女の勧めで、去年、子どもの成長の専門家に診てもらった。そのときは、「まだ危機的な状況ではないけれど、要注意」と言うことで、食事に対する注意を受けた。炭水化物を多めに取らせること、というような。そして、その後の経過を見るために一年後の予約を入れてある。

 その後2~3ヶ月、少なくとも私のところでは、カッサンドラは食べる努力をしていた。「もういらない」と感じてから、あと3口、とか、食事のときに必ず炭水化物を少しでも食べる、とか。さらにその夏の日本旅行で、好きなものをたくさん食べることができて、一ヶ月の日本で1キロも体重が増えたし、身長も伸びた。

 けれどもその直後、一ヶ月の父親とのバカンスを過ごし、9月に私のところに来たときには、カッサンドラの体重は日本旅行よりも前の状態に逆戻りしていた。カッサンドラは、父親との旅行先で、外食や招待されてのよそでの食事が多く、食べられない食事が多かったことなどを私に話した。一口も食べられるものがないまま、床に付いた夜もあったという。

 久しぶりに会った子どもたちを喜ばせようとして、私が近所のおいしいと有名なイタリア料理屋でピザを食べよう、と提案したとき、カッサンドラは、即答「ああ、レストランはやめて!食べられないかもしれない。」と言った。

 

 その後3ヶ月続けて、成長グラフのボディマス指標が今まで以上に下降方向へと折れ曲がった。そのころ、毎年秋に撮影される学校のクラス写真が出来上がって、カッサンドラが持ち帰った。カッサンドラはいい笑顔で元気よくぴょんと飛び上がっていて、すばらしかったけど、明らかに周りの子どもたちより二周りくらい小さかった。それを見ると、私の心は痛かった。

 そのうえ、このころから、カッサンドラの食卓での態度が変わってきたと思う。食べ物に対して一層選択的になり、食卓に座っても、食べ始めずに関係のないおしゃべりをしたり、お皿を見ながら鬱々としていることが多くなったのだ。

 不安になった私は、去年の12月に再度主治医に相談した。父親はそれまでに私に、「自分のいないときに勝手に子どもの医療関係のアポを取るな」と言っていたけど、無視した。父親がいると、私は言いたいことが言えなくなると分かっているから。

 

 そのとき主治医は、カッサンドラはなにか自分でコントロールできるものをコントロールする必要があるんだと思う、と言った。食べるか食べないかは自分で決められる、食べるかどうかについては、彼女に権力がある、ということ。確かに、そういう感じは見受けられた。

 主治医は、「カッサンドラはそれにはまだ若すぎるけど、拒食症の予備軍かもしれないわ。賢い子だから、早く起こってもおかしくない。」と言った。そうじゃないかと私もどこかで思ってきた。

 カッサンドラを抱くと、細い小さな骨の束みたいだ。

 

 そのとき私は、カッサンドラを連れずに一人で相談に行っていた。カッサンドラに、必要以上のプレッシャーをかけることになるのはいやだった。主治医は、「今度、カッサンドラを連れてきてください。なんにしろ診てみなくてはね。父親も話を聞くべきですから、父親もいっしょに。」と言った。

 

 私のきょうだい2人は、痩せている。子どものころ、ボディマス指標がカッサンドラくらいだったこともあると思う。日本人は背が低いし・・・双子だし・・・私はカッサンドラの成長問題には、食の問題だけでなく、生まれつきの部分もあることを差し引かなくては、とも思っていた。

 それでも、「日仏カップルの子どもでも、ものすごく体格のいい子のほうが多い」「双子でも、年齢が進んでもうちほど小さい子はいない」というのも事実で、やはり度を越していると思うことが増えた。

 私の考えはぐらぐらし続けていたけど、主治医は信用できる気がしている。私はその直感に従った。

 

 それから主治医の予約のとれる日が少なかったことや、父親の都合が合わなかったりして、確か2月になってから、カッサンドラと父親と3人で、主治医のところへ行った。

 主治医は、カッサンドラに、10歳の今食べないと身長が伸びなくなる、今は小さくてかわいいで済むけど、身長140cmのおばさんになる、身長をのばすためにはまずは体重を増やす必要がある、もしあなたが食べる気になって体重がこれから増えればいいけど、そうじゃなかったら、私はあなたを入院させて無理にでも食事をさせなくてはいけないし、あなたの好きなダンスもやめなくてはならない、消費カロリーを減らし、少しでも成長にまわさないといけない、と厳しく話した。

 カッサンドラは勇敢に聞いていた。入院やダンスを中断しなくてはならないことは、彼女を震え上がらせた。食べなくては、と焦らせた。それに、身長140cmではクラシックバレエを続けられないということも知っている。バレエダンサーになるのを夢見ているカッサンドラには、つらい事実だ。

 

 それ以来、我が家の食卓でのカッサンドラは見違えるようになった。食事の皿を前にして、前のようにいやそうにしない。そして、少なめには盛るけれど、それでも残していた以前とは違って、ちゃんと時間をかけても全部食べるようになった。

 体もあれ以来2ヶ月でずいぶんとしっかりしてきた。ダンスをしているときも、前より安定して見える。そして、髪の毛の量が増え、いっそうかわいらしくなった。カッサンドラ自身、「なんか髪の毛多い」「最近いろんな人から、髪がずいぶん伸びたといわれる」という。確かに前は、髪の毛の伸びるのが遅く、量も少なめで、生まれつきそういう髪なのだと私は思っていたが、今思えば栄養不足だったのだろうと思う。

 

 体重が伸びてきたから、主治医に勧められた児童精神科医とのアポは取らなかった。

 

 父親宅には体重計がないというので、私が体重の記録をしている。私のうちにいるときの体重を量って、アプリを使って記録している。2ヶ月で1.2キロ増えた。

 ただ、体重のグラフはギザギザと階段状になっている。私の家で増え、父親の家で減るか、横ばい。

 それでも全体としては増えていて、カッサンドラが健康ならばいいと思っていた矢先・・・

 

 カッサンドラは、嘔吐を異常に怖がる。これまでにも、私のいない父親の親戚宅でのクリスマスパーティや誕生パーティで、パーティの食卓を前にして吐き気をもよおし、実際に吐いたこともある。それが始まったのが、今思えば、父親が一方的に離婚を決める直前辺りからだ。

 

 その嘔吐が、戻ってきた。しかもパーティのような特別な食事のためではなく、普通の父親宅の食事で。