衣谷の日記

フランス在住働くシングルマザー

主たる監護者になるための手続きを始める

 子どもたちが、父親のところへ毎週帰らなくてもよいようにするための手続きを始めることにした。

 

 カッサンドラの先週の決意と、子どもたちが先週私に訴えたことは、父親の子どもに対する心理的な虐待の可能性を示している。

 

 今までの、小さな症状、アトピー、鼻血、腹痛よりももっとはっきりとした心身症が先週現れたのだ。逆に今思えば、アトピーなど原因の特定しづらい症状も、毎回金曜日に子どもたちがうちに来たときに現れていて、うちにいる間に消えていくのだから、その頻度の確かさから、心理的虐待によるストレスの可能性を疑う余地は十分にある。

 

 先々週の金曜日の夜、父親宅の夕飯の席でカッサンドラは吐き気をもよおした。10分以上、胃の中のものがせりあがってくる状態が続いたらしい。(オリオルは30分と言ったけど・・・)「お父さんは、お医者に連絡しなかったの?」と聞くと、父親は、「なんでもない。吐かなかったじゃないか。」と問題を矮小化したと言う。

 クリスマス休暇のときは、カッサンドラは本当に吐いた。それも、父親宅でだった。

 

 私は最初、子どもたちをうちにおいておく以外のよい方法を思いつかなかったが、かといって、不法にうちにおいておくことも出来ないに決まっていた。2~3日たってやっと、「体に症状が出てるんだから、一般医のかかりつけの医者に相談すればいいんだ」と気が付いた。

 ありがたいことに、うちの主治医はこのコロナ外出禁止期間以前からテレ診療をやっていて、しかもネットで見たら子どもたちが私のところにいるその週のうちに予約が取れた。

 

 私は簡単に、「カッサンドラが、父親の家にいるときあまり調子がよくなくて。私は子どもたちから聞いただけだから、本人が説明します。」と言って、あとはカッサンドラ本人に任せた。

 「さあ、どうしたのかしら?カッサンドラ」と医者。

 「私、吐き気がしてご飯が食べられなかったんです。」

 「お父さんのところでだけ?お母さんのところでは、大丈夫なのね?」

 「はい。」

 「どうしてそうなったか、分かるの?」

 「私、すごく緊張するんです。お父さんのところにいたくなくて、お母さんといっしょにいたいのに、いられない。」

 「カッサンドラ、あなたそれをお父さんに話した?話さないとだめなんじゃない?」

 「話してません。怖いから。・・・お父さんのところでは、体重も減るんです。お母さんがつけてる記録が、ぎざぎざになってて。」

 まじめなカッサンドラは、この主治医と前回会った時、体重の管理を(減らないようにするという)厳重に注意されたから、そんなことも口走った。

 

 医者は私に、

 「マダム、父親は暴力的な人なんですか?」と聞いた。

 「肉体的な暴力は振るわないと思います。」そんなすぐにばれてしまうことは、マニピュレーターはしない。「ただ、心理的には、少なくとも私には、別れる少し前からとても暴力的でしたから、子どもたちの感じていることの想像はつきます。」

 「オリオルは?オリオルも父親のことが怖いんですか?」

 「オリオルも『パパが怖い』と言っています。肉体的な危険を感じるようなことも言います。」

 医者はしばらく考え込んでから、

 「やっぱり、この間紹介した児童精神科医のところへ行って下さい。カッサンドラの摂食障害と、彼女の感じているストレスのことを話してください。それに、もしかしたらカッサンドラを、一時的にでも父親から離す必要があるかもしれません。ただそれは、私が決められることではありません。家庭裁判所で判事が判断することです。マダム、あなたは弁護士にこの話をすべきだと思いますよ。なんにしろ、このままにしてはいけません。」

 と言った。

 

 この女医さんは、すばらしい直感の持ち主だ。この人は私が怖れていた私のことを諌めるようなこと、「子どもたちが父親の元で安心していられないのは、母親のあなたにも責任の一端がある」とか、「親の間のいさかいが、子どもに悪影響を及ぼしているんだ」とか言わなかった。私はいつも、子どもを父親から引き離したがっている利己的な母親に見られることを、なぜかとても怖れている。たぶん、父親が私にそう思い込ませようとしているからだろう。そして、世間にもそういう論調の人が、ある一定数いるせいもある。

 でもこれからも慎重に、確実に、現状を打破すべく、静かに戦っていこう。

 

 主たる監護者になって、子どもたちの教育の全責任を負う。これからは、子どもたちの人生の問題を父親のせいにしない。そのつもりはなくても、今まで私は逃げていたんだと、思う。

 

 カッサンドラは、お父さんのところでは泣きたくなる、と言う。

 「泣いていいんだよ。」と言うと、

 「泣いたらお父さんにどうして泣いているか、しつこく聞かれる。それに答えられない。答えたらお父さんは怒る。怖い。」

 そして、お母さんのことを思い出すと返って悲しいから、お父さんのところにいるときは考えないようにする、といいつつ、いつも私の写真やTシャツや「大好き」のメッセージカードをお守りのように持っていく。

 泣くのも、母親のことを考えることも禁止。フランクフルトでハイジがおじいさんのところに帰りたいのに、泣くことも許されなくて病気になる、あの状態を思わせる。でも一週間だから、ハイジよりは騙し騙し何とか生き延びている。

 

 でもそれを何とか終わりにしてあげたい。