衣谷の日記

フランス在住働くシングルマザー

ラインハルトとの16年間 ⑭日仏カップル

 私の在仏20年来の親友の一人、日仏ハーフのミカちゃんは、いつも私に言っていた。フランス人男性で日本人女性を選ぶ人には、あるタイプがいる。「フランス人女性とうまく付き合えないから、従順な日本人を選ぶ」と。ステレオタイプな言い方になるが、フランス人女性は、やはり60年代の性革命を経験した国の女性らしく、男性への服従的な態度がほかの国に比べてほとんど見られないように思う。特に、日本と比べればその違いは大きい。やはり私たち日本人女性には、頭では男女平等と言っても、態度の中に古くから刷り込まれた従順さを女性の美徳とみる価値観が残っている。

 そうでない人も今は多いかと思うが、私たち日本人女性が、自然とアラブ系やアジア系の女性のほうが友達になりやすかったのも、そういう国の女性同士共通する部分があるからではないかと思う。

 そのことを考えると、私はよく、シマの義母エステルに言われたことを思い出す。

 シマは、あのカフェで金髪をなでていたアンリと、数年後結婚した。アンリは白人フランス人である。エステルは、南仏で高校の教師をしていた。彼女の元夫はエンジニアだが、アンリが高校生の時に別れて以来、その時々の恋人と、一緒に住んだり、また別れたり、と繰り返していた。シマとアンリ、ラインハルトと私の4人で彼女の南仏の家に招かれたとき、シマとアンリは婚約中だった。

 エステルは、知的な美人で、性革命とヒッピーの時代を生きた女性らしい自由さを持っていた。そして、シマと私が彼女を手伝って夕飯の支度をしているとき、こう言った。「今の若い男の子たちは、保守的な価値観を持つ東の国の女性に惹かれるのかしらね。」

 シマもきっとそうだが、私も日本人の中では男勝りで、自分で自覚していなかったけど、日本人の留学生グループの仲間から、「リンさんはフェミニストだから」と言われたことがある。私ってフェミニストだったんだ、となんだか新鮮な発見だった。

 私の意見では、私のはフェミニズムではなく、普通のことだ。男だから、女だから、という視点が、私にはない。私の母の育て方がそうだったのだ。それは私には当たり前のことで、取り立ててフェミニズムなどと呼ぶようなものではない。そういうところでは、むしろフランス人女性に近いような気もするのに、日本人だからと言って、昔ながらの女性らしい女性というようなレッテルを貼られるのはどうも不本意だった。それでも、エステルは悪気があったのではなく、どんなに私が男女平等の心を持っていても、私が生まれ育った文化の影響を受けていて、自分にはそれが見えていないことを、それなりにうまく言い当てているのだと思う。

 そのことを、私は今までに何度となく思い出したから、20年近くたった今でも、それを覚えている。

 

 ラインハルトから見れば、私は「扱いやすい」女だったに違いない。反対意見を良心の呵責なく堂々と主張するようなことは、私にはできなかったのだから。

 

 そこには大きな誤解がある。私が結婚した当初、日仏カップルのうち、日本人女性とフランス人男性のカップルは、80%が別れる、というデータがあった。今はどうか知らないが。

 逆に、フランス人女性と日本人男性のカップルは続くことが多く、離婚率は20%言うことだった。やはりそれは、そういう最初の思い込みによる誤解が、少ないからではないかと思う。