衣谷の日記

フランス在住働くシングルマザー

片親引き離し症候群

 マニピュレーター理論について調べていると時々出てくる、片親引き離し症候群というのがある。これに関しては、本も読んだことがなくてあまり私には知識がない。ただ、前から気になる概念ではある。

 

 片親引き離し症候群について私が読んでいない理由は、マニピュレーター理論よりも、さらに偏っているように思えるからだ。

 

 私が見た何本かの動画のせいかもしれない。親同士が争っていて、子どもを自分のほうに引き寄せようとし、特にそれに成功した片親がもう一方の親を完全排除するような行為をする。その親は、子どもにもう一方の親のことを悪く言い、子どもはそれに洗脳されてしまう。子どもは、自分を引き寄せるほうの親に精神的に巻き取られ、家庭裁判所でもう一方の親に不利な発言をしたり、もう一方の親のところに行かなくてはならないときにパニックを起こして泣き叫んだりする。そういう動画が、いくつか出ている。

 

  この問題に性差はなくて、男性でも女性でも加害者になりうる、とよく言われるけど、マニピュレーターの話は、男性がマニピュレーターで女性が犠牲者であることが多く、片親引き離し症候群は、子どもに会えなくなった父親の話、つまり母親が加害者であるケースが多いように見える。実際、フランスの片親引き離し症候群の被害者の会は、子どもに会えないパパたちの集まりだったりするようだ。

 それを見ていると、本当にこの人たち、いいパパなのかな?と思ってしまう節もある。子どもがそんなに嫌がっているのが、もしかして母親が根も葉もない誹謗中傷を言っているからにしろ、嫌がるものを自分の側につれてくる必要って、どこにあるんだろう?そういう家庭から消されたみたいな父親って、けっこういつの時代にもいたと思うけど、それで子どもがみんな精神に異常を来たすわけじゃない。

 

 大岡裁きじゃないけど、引っ張られて痛いと叫ぶ子どもの腕を、最初に放すのは、本当の親の方。

 

 なんとなく、片親引き離し症候群そのものが、マニピュレ-ター的に思える。「俺はかわいそうなお父さんなんだ。子どものためを思って、戦っているんだ。」ほんとかな。

 

 私は何度も、自分がしていることは、片親引き離し症候群ではないのか?と疑ってみた。そういう疑いを私が感じるように、元夫が私に、なにかというと私が子どもの陰に隠れるとか、私が子どもなしでは生きられない精神的に弱い人間だとか、言うからだと思う。元夫が、私の家族が、そうだと思っているらしいこともある。また、あの人は、私が離婚後、子どもたちを連れて日本に帰るつもりだろうと、長いこと私を責め立てた。私が何度、そんなことをしたら結果的に私は子どもを失うことになるのに、そんなことをするはずがないと説明しても、分かる気など全然なかった。

 

 実際は、私は子どものいない週を、かなり充実して楽しく過ごしている。子どもを育てるのは大変だ。うれしいことと同じだけ、つらいことがある。喜びが大きい分、苦労も多い。しかも、子どもがそこにいる限り、努力しないという選択肢がない。どうやっても、全身全霊を捧げる感じになる。だから、子ども相手が何より一番疲れる。一人のときは、仕事と、趣味と、友人と、自分が載せたいだけの努力をして、それだけの見返りが来て、自分はさして成長しないかもしれないけど、楽しいし疲れない。私が子どもなしで生きられないというのは、嘘だ。

 

 私が子どもを父親から引き離したいのは、父親が子どもを傷つけたり、成長を阻害したりするからだ。しかも、完全に切ってしまいたいのではない。子どもに与える損害を少なくする程度に、量を減らしたいだけだ。

 

 離婚後、最初のうちは、元夫、あるいは妻のしたことに腹を立てて、子どもを渡したくないと思うのは、誰だってあると思う。そのあと、それでも子どもの幸せを願い、子どもにはできれば良い両親がいたほうがいいことを思えば、自然と相手にも子どもを育てる権利があることを認められるようになるものだと思う。

 ではなぜ、私は自分が一人で育てようと思うのか。それはやはり、父親が子どもに対していることが、正しくないからだと思う。悪い親というのはいる。実の親でも、悪い親なら、いないほうがいい。そうして、自分が主たる監護者になるということは、もう子育ての失敗を誰のせいにも出来なくなるということでもあって、自分ひとりにぐっと責任が重くのしかかる。逃げ出したいとは思わない。ベストを尽くそうと思う。今より慎重になるだろう。真剣になるだろう。同時に、そうすることで、子どもにとっても、私にとっても、「本当の人生」みたいなものが始まるような気がしている。

 

 それでももしそれこそが、片親引き離し症候群というものであるとしたら?やっぱり片親引き離し症候群について、勉強したほうがいいかもしれない。