衣谷の日記

フランス在住働くシングルマザー

ADHDと夜尿症

 カッサンドラの問題をいろいろと書いたが、オリオルもいろいろあったし、今でも課題はいろいろある。

  そのなかから、今日は夜尿症のことを書こうと思う。

 

 オリオルの夜尿症が治ったのは、9歳の後半だ。それまで、生まれてから一度も夜寝ている間におしっこが出なくなったことがない一次性夜尿症というもので、しかもほぼ毎晩というかなりの重度のものだった。

 いったん夜のオムツが取れていたのに、ある年齢でまたおねしょが始まったと言う二次性夜尿症の場合は、心因性のものじゃないかと疑われるべきだと思うけど、オリオルの場合、まさに一度も「夜のオムツが取れたことがない」という状態だった。

 特にトイレトレーニングをせずとも、昼間のオムツは2歳には取れていたのだけど。

 

 私は、発達障害のある子に夜尿症が多いことを本で読んで知っていたから、そういうことであればそれが理由かな、と推測していた。私の実家側の発達障害者たちにはその傾向は全くなかったが、父親側の家族にはかなりの高確率で夜尿症があった人がいたことは、後になって知った。

 夜尿症と発達障害の関係は、医学的に解明されているわけではないようだ。脳の仕組みとか神経など身体レベルでの違いというより、発達障害者の過敏性とかストレス耐性の弱さとかから来る二次的な理由ではないかという説も目にしたことがある。でも、私の感じでは、脳か身体のなにかが全く機能していないみたいに見えた。心理的あるいは後天的なこととか、またはほかの人より膀胱が小さいとか、尿の作られる量が多いとか、そういう相対的なことじゃなくて、なにかが絶対的に違うみたいに見えた。

 いつか誰かがそれを科学的に証明してくれたら、私はその内容をぜひ知りたいと思う。

 

 オリオルが小さいころ、その異常に怖がりなこととか、夢見がちでボーっとしていることとか、おおらかなところとか、共感力がものすごく強いこととか、なかなか幼稚園や学校というシステムになじめないこととか、馬鹿力があってなんでもスケールが大きいこととか、不器用なこととか総合して、「器の馬鹿でかい子」なんだと思っていた。今でも思っている。

 型破りの、創造的なすばらしいことをやるために生まれてきたんだろう。私が彼のその貴重ななにかを育てるのに失敗したら、この偉大な可能性を潰してしまう、大事にしなくては、といつも思ってきた。

 

 二人が赤ちゃんのころ、たまたま坂本竜馬の伝記を読んでいて、坂本竜馬ってオリオルみたいな子どもだったんだろうなと思った。坂本竜馬はADHDだったと言われたりするけど、やっぱりオリオルもそうなんだろう。ADHDにもいろいろいるだろうけど、オリオルと坂本竜馬は特別よく似ているように思えた。

 だんだん時が経って、オリオルが、「どうしてぼくは夜おしっこが出るのかな?」と気づき始めたころ、すぐに私は、オリオルに竜馬さんの話をした。日本を変えたすごく立派なお侍さんだよ、その人はオリオルによく似てたんだ、と。「竜馬さんも、夜おしっこが出る人だったんだよ。オリオルは、竜馬さんみたいに立派な人になるよ。」最初は、「そうか。ぼくはりょうまさんみたいになるんだ。」とにこにこしたけど、年齢が進んで、お友達の家に呼ばれたりしたときに、もうほかの子は誰もオムツをしていなかったりすると、やっぱりがっかりしてしまう。

 そういう時も、私はいい続けた。

 「竜馬さんは14歳までおしっこが出たんだよ。それだけオリオルには、ほかの人と違うなにかがあるってこと。14歳になっても治らなかったら、お母さんは心配しようかどうか考えるよ。」

 

 結局、オリオルが夜尿症のことで悩むことは、ほとんどなかった。小学校一年生~二年生のころに、学校嫌いのために薦められて通っていたカウンセリングの心理療法士も、オリオルの気持ちが夜尿症によって傷つけられていないことに感心していた。

 それは私を信じてくれたオリオル自身の素直さのおかげもあるけど、なんと言っても、母親の私がそれを悩んだり気にしたり、恥ずかしいと思ったりしたことが一度もなかったからだと自信を持っている。

 

 去年、ついにオリオルが頭を悩ませ始めたのは、スカウトのキャンプでどうしたらいいかということだった。二年ぶりのキャンプ参加が決まっていて、キャンプは二週間もあるのだ。前回の二年前のキャンプは、2泊しかなかったしまだ7歳だったから、それほど問題にならなかった。

 

 私は、前から効果があるらしいと目をつけていた、夜尿症治療用のアラームを試してみることを決めた。以前に調べたときは、とても一人でそれを扱うことは無理に思えたが、使用可能年齢が9歳くらいからということで、オリオルはちょうど9歳。ちょうどそのころのオリオルの年齢で、確かに出来そうに思えた。キャンプまであと数ヶ月あった。

 パンツにつけたセンサーが一滴でも濡れると電気が通じてアラームが鳴るというもので、目が覚めた子供は、いったんおしっこを我慢してトイレまで行って膀胱を空にし、布団に戻って寝ることになる。熟睡している状態から目覚めて、アラームを消し、小さなセンサーをはずしてトイレに行く、というのは、ある程度の年齢にならないと出来ることではない。

 最初の晩は、夜中にうち中が飛び起きるような大きなサイレンが鳴ったにもかかわらず、熟睡中のオリオルは目覚めず、私が飛び起きてオリオルを起こした。最初は一晩に二回鳴ることもあった。長く続くと大変だと思ったけれど、一週間で一晩に一度になり、オリオル自身が目覚めるようになり、朝シーツを変える必要がなくなった。

 二週間もすると、一度も鳴らない日が増え、多少の行きつ戻りつはあったものの、1~2ヶ月で完全に夜尿症が治ってしまった。

 

 もっと早くにやっていたら、もっと早くに治ったかもしれないと思うほど、簡単だった。

 オリオルの身体に、「寝ている間、尿がある程度たまったら自動放尿する」というデフォルトで入っていた機能のスイッチが、あの爆音でオフになったとでもいうような変化だった。アラームが、ちょうどおしっこが出るそのときに鳴る、というのがいいようだ。トイレに行きたくなったら自然に目が覚める、というだけじゃなくて、膀胱なのか、夜に尿を作らないようにするホルモンなのか、なにかの仕組みを直接教育してくれたみたいだ。

 

 オリオルが使った商品は、日本では売っていないみたいで見つからない。寝返りの激しい子なので、パンツにつけるセンサーと、アラームを鳴らす本体が無線になっている以下のようなタイプを使った。

 

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 ちょっと高い投資だけど、もし同じような問題を抱えるお子さんのいる方は、試してみる価値はあると思う。上手くいかなくても、心配したり、気にしたり、しないのが一番だと思うけど。