衣谷の日記

フランス在住働くシングルマザー

おやゆび姫が逃げたもの

 私がこれから話そうとすることは、私の人生で起こった最大のピンチのことだ。なぜそうなったのか、外から見れば自明のことなのかもしれないと思うけれど、本人の私にはその説明は難しい。

 

 私はおよそ20年前、あるマニピュレーターに出会った。そこが始まりだったと思う。

 

 その人格を命名したいのだけど、よい名称が見つからない。マニピュレ-ターという言い方は、本当はあまり適当ではないと思う。

 というのは、マニピュレート自体は、誰でも日常的に行うものだし、利己的なものだけでなくて、利他的なマニピュレートも多々あるからだ。マニピュレートすること自体は、必ずしも悪いことではない。

 例えば、鹿児島の昔話「あにょどんのデコンじる」の話は、利他的なすばらしいマニピュレートの話だ。子どもたちとまんが日本昔話を見ていたとき、偶然見た。

 働き者のおとっとんが、あにょどんをうまくマニピュレートして、怠け者だったあにょどんが自立する、兄思いの弟の話だ。そういうよいマニピュレートの例は、悪いマニピュレート同様、日常に数多くある。

 

 けれども、悪いマニピュレーターとその被害者たちについて、フランスでは一般テレビ番組でも聞くほど「流行」したし、私が最近読んだアメリカの心理学者ジョージ・サイモンの「他人を支配したがる人たち」という本にも、その名称は、潜在的攻撃性パーソナリティという概念と平行して用いられている。そして、私の出会った人は、まさに「マニピュレーター」として描かれている人格にぴったりだから、今後なにかよりよい呼び名を見つけられるまでは、この一般的な名称を使っていくことになるのではないかと思う。

 

 

 実際、マニピュレーターという概念を3年前に発見したとき、私はずいぶんとそれに助けられた。

 最初に読んだのは、フランス人カウンセラーによるフランス語の本で、著者はクリステル・プチコラン(Christel Petitcollin)。彼女は、マニピュレーターについての本を数冊書いている、マニピュレーターの「スペシャリスト」だ。

 

 フランスでマニピュレーターの類義語のように使われるPN、Pervers narcissiqueという言葉もある。私は勝手に「自己愛性背徳者」と訳していて、こちらのほうがはっきりと背徳的であることが言われている分、より私の言いたいことに近いような気はする。が、PNはサイコパスに似ていて、私のマニピュレ-ターからは少し遠ざかってしまう。

 M.スコット・ペックの「平気でうそをつく人たち」に出てくる「邪悪な人たち」も、そういった一連のカテゴリーの人たちだと思う。

  私の出会った「マニピュレーター」は、それらの人より卑小で、しみったれていて、おそろしくせこせこしている。

 

 物語のなかでヒーローの強敵になるような悪ではなく、「おやゆびひめ」に出てくるもぐらか、野ねずみのおばさんに似ているかもしれない。

 

 

「他人を支配したがる人たち」

 https://amzn.to/2XsMdHv

「平気でうそをつく人たち」

https://amzn.to/39Wuw5S